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「僕の夢はまだ実現していない」
~イスラエル・フィルを自作自演で指揮すること

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  • 僕の本当の夢はまだ実現していないんです。本当の夢は、イスラエル・フィルを自作自演で指揮することなんです。あの100人のすごい音を出すオーケストラーが、ブワーッと燃えてくるようなそういう曲をやりたい。指揮までいかなくてもね、演奏をしてもらえたら・・・。生きている間にね、それはもう夢の夢やからね。
  •  弦楽オーケストラの曲はもう作ってあって、それはアンサンブルの曲で「道」っていう曲。その後、東大寺で、関西フィルとコンサートを行った際に作曲したのが、「つくられたものすべての賛歌」という曲です。日本で初めて大仏殿の中でオーケストラを入れて演奏させてもらったコンサートだったんですが、そのために1年がかりでオーケストラのための曲を作ったんです。でもそれは自分では失敗というか、オーケストレーションがへたくそだったと思うから、今でもすごい勉強しているんです。今度作るときは、「これや!」っていうものを作りたいと思って。

━━━━━━イスラエル・フィルの演奏に値する曲っていうのは、これからなのですね?

  • そう、まだ生み出されていない。その前に弦楽四重奏の曲を作ろうと思って、今取り組んでいるところ。弦4本、ヴァイオリン2本と、ビオラとチェロと。オーケストラよりももっと小さい。それを完成したら、ヴァイオリンコンチェルトをつくりたい、ヴァイオリンとオーケストラのための曲をと思っています。

━━━━━━オーケストラのための曲作りはたいへんなのですね。

  • 本当に自力でオーケストラに音を出してもらおうと思ったら、300万円ぐらいはかかるんです。3日間の練習も入れて。だから、どこかスポンサーがつかないと可能じゃないんです。
  •  東大寺コンサートのときは東大寺が主催ですからね。それで1年がかりで作って、実際にとても勉強になりました。全部の楽器を勉強しなくてはならないからね。とくにホルンなんかはすごく難しくて。響かせかたとか。
  •  そのためにはもう一回初心にかえらないといけない。何か新しいことをはじめるのには、ものすごくエネルギーがいるでしょ?そして持続力。何ヶ月も続くようなそういう力が自分の中になかったら、できない。だから今はそういう力がほしいな。自分との戦いなんですよ。自分を否定するような思考に負けずに、肯定的でないと作れないから。

~「魂の兄弟」をリリース―死別を乗り越えて

  • 3年前、お兄さんが癌で亡くなったんです。兄は、音楽にとても理解があって、困ったときには経済的にも、精神的にもたくさん助けてくれました。ものすごいハートのある人で、兄からたくさんの影響を受けました。だから、今年、兄に捧げるCDを作りたいんです。どこで出すのかも決まっていないし、曲もまだ出来ていないんですが、今年中に作りたいと思っています。兄のためだけではなく、僕が経験したような、大切な人を亡くして、つらい思いをしている人たちに届くような、そういう曲を作りたい。
  •  兄が亡くなったときは、ものすごく胸が痛くて、苦しくて。3年かかった。それで、やっと音に、お兄さんのための音に向かえるようになった。だからものすごい生と死なんですよ。死がすごいテーマになっている。死を乗り越えて、っていう。
  •  それと「魂の兄弟」という曲も作曲中で、ソウルのような、ブルースやジャズ的な影響もあるような曲になると思います。兄が好んでいたようなフィーリングのある曲にしたいんです。

━━━━━━さらにこれから生まれてくる林さんの作品、本当に楽しみです。
最後に、今回、林さんが作曲され、ピアノ演奏をされている「平和を求める祈り」の動画を配信されましたが、その曲と動画配信の経緯についておしえてください。

  • 林氏:はい。竹下景子さんが詩の朗読、僕がピアノの即興演奏をする阪神大震災のためのチャリティコンサートを13年間やっていたのですが、このコンサートの最後にいつも弾いていた曲が、聖フランシスコの「平和を求める祈り」でした。この曲はずっと大事にしている曲で、誰の心にもすっと入っていくような曲だと感じています。フィンランドやニューヨークでコンサートをしたときにも、様々な国の方たちが、この曲を聴いて涙を流してくれて、そのときに、「あぁ、通じる」と思ったんです。何かこの曲は、水みたいな曲なんです。作ったっていう記憶がなくて、すっと与えられたような。

  • 智子さん:それで、私が、日本でオリンピック開催が決まったと聞いた日に、教会でお祈りをしていたら、「平和を求める祈り」の主人の曲が流れているオリンピックの会場のイメージが出てきたんです。オリンピックは平和の祭典なので、そこで世界各国の人と一緒に、この曲と聖フランシスコのメッセージが分かち合えたら、素晴らしいなぁという想いが湧き上がって。それで、私ひとり想っていても、何も動かないと思ったので、何かの形にしたいと思って。それで、曲とメッセージの入った動画を配信できたら、多くの人に届く機会がつくれるのではないかなと思ったんです。東京オリンピックでの演奏には、繋がらなかったとしても、聴いてくれた誰かひとりでも、救われたらいいな、と。でも、それを主人に話したら、「えー?」と言ってましたが。

  • 林氏:そんなん、思ったことがなかったしー

  • 智子さん:でも、あなたは昔から祈ってたでしょ?「神様の音楽家になりたい」って。ずっと祈ってましたから、そのような導きにもなっているのかなと思います。

  • 林氏:うん。何か、対立しているところの架け橋になるというのが、僕の使命なのかなとも思う。普段は意識していないけれど。

━━━━━━林さんのHPのタイトルに「いのちはつながっているよ」ということばを載せていらっしゃいますが、今回伺った林さんの人生経験と音楽を通してやっていらっしゃることが、その言葉に表れているように感じました。本日はありがとうございました!


インタビュー後の感想:
純粋で真っすぐな林さんの情熱は、一見困難と見える状況や、出会うひとたちのハートをも開いてしまいます。そして、林さんが旅の途中で出会った、先輩音楽家たちのあたたかいハートにも触れ、一緒になって勇気をもらいました。
「平和を求める祈り」の動画は、日本語、英語、イタリア語の字幕がついた3バージョンがあります。ぜひ、おともだちにも共有してください!わたしは、何度も繰り返し曲を聴きながら、メッセージと画を観照していくことで、内側の怖れや葛藤が透明になっていき、静かな幸福感がやってきました。(マヤカ)
「平和を求める祈り」の動画の特集ページはこちら

林晶彦 Akihiko Hayashi
1955年、兵庫県西宮市生まれ。17歳で単身渡仏、作曲・ピアノ・指揮を学ぶ。その後、イスラエルやインドに渡り、独自の音楽を探求する。1989年、ツトム・ヤマシタ氏のプロデュースによる京北国際フェスティバルでデビュー。その後、数々のソロ・コンサートやコラボレーション・コンサートを精力的に開催。近年には、絵本作家の葉祥明氏との「朗読とピアノ即興演奏」、女優の竹下景子さんとの「朗読とピアノ即興演奏」(復興記念コンサートin 神戸1999-2008)を行う他、作曲にも力を注ぐ。