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美しいものには力がある。
わたしはストーリーを大切にする‘ジェムハンター’でありたい。
宝石鑑別士 グローバルリーチ社代表 片山新子さん

2011.02.05 update|インタビュー

インタビュア:マヤカ

海外生活を送りながら宝石鑑別士の資格を取得した片山新子さん。現在は、宝石の買い付けや研磨、デザイン、販売に至るまで幅広く活躍されています。日々研究にも熱心な新子さんからは、お会いする度に奥深い宝石のお話を聞かせてもらっています。今回は、今のおしごとに就いたきっかけやその魅力についてお話を伺いました。

━━━宝石鑑別士になったきっかけをおしえてください。

  • 主人の仕事の関係でスリランカへ移り住むことになり、娘も手がかからなくなっていたので、何か資格を取りたいなと考えていました。スリランカだと宝石か紅茶かアーユルヴェーダかなと思ったのですが、その中でも一番、縁のなさそうな(笑)宝石について学んでみたいと思いました。イギリスにある英国宝石学協会の鑑別の勉強がスリランカでもできるということで、1年集中的に勉強して、無事試験に合格し、FGAというタイトルをもらいました。すると、だんだんインクルージョン(内包物)の世界にはまっていきました。宝石、というより、宝石の中を見るという、その奥深さに魅かれていったのです。

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写真:アフリカ、タンザニアで産出されたピンクスピネル。かわいらしいピンク色が魅力的。

━━━もし、別の国に行くことになっていたら、別のものを取り組んでいたかも?

  • そうですね。アフリカに行っていれば太鼓かアフリカンダンスをやっていたかもしれません(笑)。結婚を機に仕事を辞めていましたから、子育てに時間がかからなくなって、自分の時間が持てるようになったとき、自分を確認する意味でも掘り下げて学べる何かが欲しいと思ったのです。

━━━結婚前はどんなお仕事をされていたのですか?

  • NGOの仕事です。アフリカやアジアなど途上国での医療支援のプロジェクトの為の仕事を日本の本部でしていました。政府から補助金を頂いたり、レポートを書いたり、派遣の準備をしたり、何でもやっていました。外国人と接して、交渉するという意味では今の仕事と共通しているといえます。20代で海外に目が向いていたこともあって、異なる文化の人と接することも多くあり、体験から自分はそのことが得意なんだなとわかりました。言語が得意ということではなく、異文化の人とコミュニケーションをとるということが。ですから、スリランカに住んでいる今も、買い付けはすべてスリランカ人との交渉になります が、楽しんで仕事ができます。

━━━日本人とのコミュニケーションとスリランカ人とのコミュニケーションと違う点はありますか?

  • 日本人以外の東南アジア、南アジアの人たちというのは、日本人と比べると気が強い人が多い気がします。日本人だったら言わないことも、はっきり言うので、こちらも主張するようになりましたね。でも、主張しているだけではだめで、自分が年齢を重ねて来て、特にその押し方と引き方もわかってきました。皆がハッピーに仕事が進められるようなコミュニケーションを心がけています。

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写真:スリランカの宝石産地、ラトゥナプラ。宝石の町という意味をもつラトゥナプラは、古代から宝石が産出されることで有名な場所。昔ながらの井戸掘りスタイルで、縦に穴を掘っていきます。

━━━宝石については、学び始めてからその内包物の世界に魅かれていった、ということですが、今、新子さんにとって宝石の魅力というのはどういうものですか?

  • 宝石学でも学ぶのですが、宝石の定義は、「希少性、美しさ、耐久性」というのがあって、やはり選ばれたものなんですよね。大地に鉱物というのは、たくさん出てきますが、たとえばコランダム(サファイア、ルビーの鉱物名)でも、その中から磨かれて輝いて、色と輝きが両方綺麗なものというのは少なく、奇跡に近い。今はいろいろな処理がなされていたりします。処理が悪いわけではないですが、宝石の定義からいくと「希少性」というのがなくなってきているように思います。宝石は大地からの恵みだと思うし、それを大切に親から子へ受け継がれていくことが、宝石の魅力だと思います。

━━━仕事をしていてどういう瞬間が楽しいですか?

  • 顕微鏡を覗いて、綺麗なインクルージョンを見たときですね。処理をされていないものは何が美しいかというと、中のインクルージョンが壊れていないことです。やはり、多くのサファイアは加熱処理(電荷移動)で青色を出したりしますが、 加熱すると、サファイアの中にある鉱物で融点の低いものは壊れたり溶け出します。それに比べて、溶けなかったり、壊れていない鉱物は、宝石の中に宝石があるようなものです。大地の歴史をそのまま記憶として残しているようで、とても美しいです。例えば、サファイアの中に線のように入っているルチルに光があたっているのを見た時は、本当にきれいだと思います。スピネルの中にスピネルが入っていたり、順序よく並んできれいに入ってるのをみると、‘ヒョー!’と声を出してしまいます(笑)。
  •  例えば、イエローサファイアは、カラーセンター、色中心と言うのですが、原子の配列に欠陥があって、そこに光があたると黄色に見えます。イエローサファイアの原石をカッ トして置いておいたら、退色していって、白っぽくなった経験があります。それは紫外線で原子の配列が修復されたことで起きたのですが、面白いですよね。また、ルビーは酸化クロムが数パーセント入っているかどうかで、赤になるのですが、鉄分が多すぎると綺麗な赤の発色が抑えられてしまいます。見る者を魅了するような赤色を出すルビーは原子レベルの動き方が感動的で。宝石の中で色もがんばっているような。(「赤の理由」の詳細は片山新子さんのブログ「スリランカ宝石留学物語」に)

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写真:スピネルのインクルージョン。八面体の結晶系を保つスピネルが並んだ形でスピネルの中に存在します。

━━━今、新子さんがお気に入りの宝石は何ですか?

  • もちろんサファイアが自分の専門分野で、原石から入手して一番親しみを感じている宝石ですが、処理されたものの鑑別が難しいと思う時があります。そのほか、クリソベリルとスピネルも大好きです。最近見かける、アフリカ産のホットピンクと言われるピンクスピネルはきれいだなと思います。何も処理されていない状態で、あれだけ輝くというのもすごいです。クリソベリルはスリランカで原石が手に入るので、数多くの原石を磨いてみてわかるのは、それぞれ色が微妙に違うことです。淡い黄色や緑はとても少なかったり、中でも金色の輝きが強いものが好きです。鑑別という仕事は、宝石を見分けるだけでなく、宝石に処理されているものを鑑別するものであるし、その処理がどのようなものなのかを調べることが重要になってきます。ですから、処理をされていないクリソベリルやスピネル、ガーネットは内包物から本物であることが確認しやすいので、好きというのもあります。
  •  最近は、色と輝きにさらにこだわりを持つようになってきました。価格だけではなく、小さくても輝きがあるとか、きれいなものでないと仕入れたくないんです。美しいものには力があると思います。外側には輝きはないのだけど、内側にきれいなインクルージョンを持っている宝石も私は美しいなと思います。普通の宝石店はクラックはもってのほかで、インクルージョンのあるものも好まれませんが、私は天然のクラックもインクルージョンも、‘味わい’だと感じます。特にインクルージョンは指紋のようなもので、それがあることで本物であることが確かにわかりますし。

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写真:スリランカで産出されたサファイアの原石。漂砂鉱床のため、サファイアは小石のような状態で産出されます。
また、同じサファイアでも含まれる化学成分等で色が違ってきます。

━━━今後さらにやってみたいことなどはありますか?

  • 宝石はわたしにとって、あくまでも人とのコミュニケーションの為のツールです。宝石を通していろいろな人に会いたいと思います。買ってくれる人と繋がりたいという想いがあります。ですから、宝石買い付けからお客さまの手に届く最後まで見たいのです。それぞれの方の予算や希望に見合った、最高の物を探してお届けする‘ジェム・ハンター’でありたいです。何か物を買うとき、特に宝石を買うときというのは、それぞれの方にストーリーがあると思うのですよね。何かの記念日だったり、ご褒美だったり。そして、その宝石を身に着ける度に思い出す、そのストーリーを大切にするお手伝いができたらいいなと思います。


インタビュー後の感想:
新子さんとは英国留学時代からの友人です。当時、新子さんはイギリスの女子校に日本語教師として赴任していました。日本人は住んでいないような田舎町で、日本語と日本文化を楽しく教える新子先生は、イギリス人の女の子たちからも、ちょっと気難しそうな先生からも人気でした。そして、慣れない道を新子さんはひとり、レンタカーで、私の住むロンドンまでやってきたときのことがとても印象に残っています。テムズ川の川岸に車を留め、新子さんはビッグベンを見上げながら、「私は将来、映画を撮りたいと思っているの。だからすべてそのための経験になるのよ。」と言っていました。最近その話をしたところ、「全然覚えてない(笑)!」とのことでしたが、好きなことにまっすぐで、周りのひとも自然と元気づけてしまうそのパワーはいまも変わらない、素敵な女性です。
 今回のインタビューを通してわたしは、どこで、何をするかはさほど重要なことではないのだと改めて感じました。つまり、地球のどこに暮らそうと、何をしようと、自分の興味にまっすぐエネルギーを注いでいけば、自然と歓びの渦は生まれ、周りのひとをも幸せにしてしまうのです。それには自分の中のインクルージョンを優しく愛でる目があればいいのですね。(マ)


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片山新子 Shinko Katayama
宝石鑑別士(英国宝石学協会認定、FGA)。2008年にグローバルリーチ合同会社を設立。鑑別のみならず、原石買付け、研摩、ジュエリーデザイン、販売など幅広く活動を行う。コランダム(サファイア)の専門的研究も意欲的に取り組んでいる。
http://www.globalreach.co.jp/



読みました!

すごくインスパイアされました。

私の情熱も動いたように思います。
私も何かが見えた感じがします。

大好きなことを喜びと共に続けている人。

その輝きが放射されるとき、
それそれが自分の中の輝きを意識するんじゃないでしょうか。

すごくステキですね。

スリランカで自分の輝きを見つけるツアーというのも行ってみたいと思いましたw

(神奈川県 私はエメラルド 10/02/06)